第9回活動理論学会研究大会のご案内

活動理論学会では、2023年3月25日(土)、第9回活動理論学会研究大会を対面+オンラインで下記の通り開催いたします。ご関心をおもちの皆様のご参加をお待ちいたしております。

日 時:2023年3月25日(土)9:30~16:40
参加費:無料
会 場:秋田拠点センターALVE 4F 小会議室2 ※ 対面とオンラインのいずれでも参加可
主 催:活動理論学会 http://www.jarat.org

参加申込と参加方法:Peatixにて申込受付
https://peatix.com/event/3478158/view

大会プログラム(敬称略)
研究発表
09:30 –10:00
匠 英一((有)認知科学研究所)
『胚細胞モデル』に関する弁証法的な視点からの“矛盾”概念の再検討
「胚細胞モデル」は弁証法の原理を応用したものであり、“矛盾”の認識が不可欠なものとして捉えられている。ところが、最近の実践研究では弁証法的な関連性が見えないまま、その活動の一般的な“変化要因”として位置づけられてしまっている。そのため概念モデルが多様に定義されてしまい、社会学的な“適応”と変わらないものになってしまう問題がある。そこで活動理論の土台となる弁証法の視点を整理し、課題点を明確にしたい。

10:00 –10:30
森川 与志夫(奈良教育大学)
高等専修学校における教育実践の意義と課題
高等専修学校は高等学校等と並ぶ後期中等教育機関だが、「1条校」諸学校と比較して生徒在籍数も少なく、社会的な認知度は高くはない。しかし、高等専修学校は不登校生徒や高校中退者を受け入れ、特別支援教育でも先進的な実践を展開し、いわば後期中等教育の「セーフティネット」としての役割を担ってきた。発表者は2019年から2022年まで大阪市内の高等専修学校で教育実践に携わってきた。本発表では、高等専修学校における教育実践の意義と課題について論じていきたい。

10:30 –11:00
上田 真未(関西大学大学院)
小学校における『作文』と『集団的主体』への形成的介入アプローチ—『作文』を活動システムの道具として
本発表は「作文」を活動理論における「活動」すなわち「環境と自己の同時的・相即的な変革」として捉え、「書く」ことを通して、個人や集団で何が生じているのか、何を起こそうとしているのかを分析・考察し、明らかにすることを目的とする。また、教師や児童が「学校」という枠組みの中から、「いまだここにない」ものをもとめる「変革的エージェンシー(transformative agency)」を発揮し、ともに集団的主体となっていくことの事例を取り上げる。

11:10 –11:40
渡辺 楓(関西大学大学院)
公立小学校2校における外国語科授業実践の比較分析—活動システムのモデルを用いた教師活動と児童活動の分析を通した関わり合いと矛盾の解明
本発表では、現在観察している公立小学校2校における外国語科の授業実践について活動システムのモデルを用いて比較・検討する。そこでは、2校における教師活動と児童活動をそれぞれ活動システムのモデルを使い、ルールや道具などに焦点を当てて分析していく。また、教師活動と児童活動の間の関わり合いや矛盾について検討していきたい。

11:40–12:10
山田 直之(関西大学)
形成的介入者が抱える葛藤の教育学的意味
教育学は教育についての科学であるのと同時に、教育のための科学でもあるという独自の構造を有している。そのため、通常、教育学を背景にもつ形成的介入者は、この独自の構造に基づく葛藤を抱えやすい傾向にある。本発表では、教育研究において形成的介入者が抱える困難や葛藤を、当事者がいかに語るのかインタヴュー結果に基づいて描き出し、その語りを歴史的に位置付けることで、葛藤の意味内容を明らかにすることをめざす。

12:10–12:40
吉澤 一弥(日本女子大学)
『ストップ虐待・親支援のあり方検討会議』の次に向けて—第4世代のフレームワークを視野に入れたデザイン案の検討
「子育て・子どものしつけ」を対象とし「体罰容認文化」の変革を目指して全国展開した2019–2020の多職種連携プロジェクトでは、3つの拡張的成果を生んだと考える。これを反省的に振り返り、コロナ禍の影響と最近報道されている保育園での不適切な保育という重要な変数を考慮して次に向けての活動のデザインを検討する。相対的貧困の影響、水平・垂直方向を問わず各地で分散・多様化している関連活動の実態、長期戦が想定されることなどから、runaway objectsと位置づけ、第4世代の考え方を参考にすることを提案したい。

13:30–14:00
山住 勝広(関西大学)
生活作文を通した生活創造のための主体のエージェンシーへの形成的介入の活動理論的検討—野村芳兵衛の『本を作る教育』論と佐々木昴の『リアリズム綴方教育』論に焦点化して
ユーリア・エンゲストロームとティモ・カリネン(Engeström & Kallinen, 1988)は、劇場の集団的活動システムの分析を通して、劇場の演劇が「想像された生活世界」の「創造」を活動対象にしており、その「想像された生活世界」が観客の生活世界と結びつき、彼らの生活活動の中で「生きた道具」へと転回していくことを明らかにしている。本発表では、こうした生活創造のための主体のエージェンシーへの形成的介入(formative intervention)として教育がもちうる潜在力に注目し、まず、野村芳兵衛の「本を作る教育」論を取り上げる。「本を作る教育」論において野村(1958)は、「観念だけでなく、現実の生活を切り開いて行く力」(p. 32)を子どもたちにもたせる「生活教育」のカリキュラムの中心に、「生活綴方(作文)」を位置づけるのである。次に、戦前の秋田における北方教育運動の理論的支柱のひとりだった佐々木昴の「リアリズム綴方教育」論を、同様に分析していく。佐々木は、学習を「生活統制」としてとらえる野村(1933)から根本的な影響を受け、「生活綴方(作文)」という主体の表現を、「生活を再認識し再構成」(佐々木, 1933, p. 7)していく主体的な現実創造として意味づけていったのである。

14:00–14:30
山住 勝広(関西大学)
エージェンシーへの形成的介入の方法としてのチェンジラボラトリー
「チェンジラボラトリー」は、フィンランド、ヘルシンキ大学のユーリア・エンゲストロームの研究グループによって1990年代半ばに生み出された、活動理論的な形成的介入(formative intervention)の方法論(methodology)にもとづく研究方法である(Engeström, 2007, 2016; Engeström, Virkkunen, Helle, Pihlaja, & Poikela, 1996; Sannino & Engeström, 2017; Sannino, Engeström, & Lemos, 2016; Virkkunen & Newnham, 2013)。それは、実践者や専門家が、お互いの間で、また管理者やクライアントとともに、あるいは少なくとも介入を行っている研究者とともに、対話し討議することによって、自らの仕事の実践を自ら発達させていく方法である。そこでは、「拡張的学習(expansive learning)」のサイクルを参加者たちに促進・支援していくために利用可能な一連の豊富なツールを参加者間で作り出し共有することがめざされる。また、そのようにして、参加者たちが継続的な分析を行う場がそこには生み出され、チェンジラボラトリー自体が、データ収集とデータ分析を行う手立てとなるのである。その意味でチェンジラボラトリーは、教育学研究の新しいスタイルであり、研究論文執筆の新しい方法といえるものである。本発表は、こうしたチェンジラボラトリーを方法とした活動理論的な形成的介入研究の国際的な動向についてレビューし、いくつかの研究事例を紹介しようとするものである。

シンポジウム
14:40–16:40
戦後コア・カリキュラムの再検討
伊藤 大輔(秋田県立大学)「バーンスティンの言語コード理論に基づく戦後初期コア・カリキュラム の一考察―金透プランにおける『自由研究』を事例として
冨澤 美千子(横浜美術大学)「野村芳兵衛『あすの子供』(1950年)と長良プラン
金馬 国晴(横浜国立大学)「戦後初期コア・カリキュラムの『形式化』『固定化』問題をめぐる矛盾 の構造―活動理論による分析
平成29・30・31年改訂学習指導要領では「各教科等の特質に応じた見方・考え方を働かせながら、知識を相互に関連付けてより深く理解したり、情報を精査して考えを形成したり、問題を見いだして解決策を考えたり、思いや考えを基に創造したりすることに向かう過程を重視した学習の充実を図ること」とされ、各教科等で探究的な学びがこれまで以上に重視されている。そのための中核となる「総合的な学習(探究)の時間」であるが、本来、子供の要求や学びの実相に沿って展開すべき学習活動の固定化やパターン化が問題とされている。これは、生活科や総合的な学習の時間のルーツとされる、戦後新教育、すなわちコア・カリキュラムにおいても、同様の問題が指摘されており(例えば金馬 2006など)、半世紀以上を経て、今もなお未解決の課題と言える。そこで、本シンポジウムでは、異なる三つの専門分野の登壇者による「戦後コア・カリキュラムの再検討」及びフロアとの議論を通して、カリキュラムの固定化を乗り越えるための手がかりを探りたい。

研究交流会
17:30–20:00
※ 秋田駅付近での実施を計画しております。奮ってご参加ください。